カレの愛は増すばかり。
―ピーンポーン…
頭の中に、聞き覚えのある機械音がじわじわ響く。
―ピーンポーン
―ピーンポーン…
……何?何だっけこの音。
私は暗闇の中薄く目を開けると、まだはっきりとしない頭のまま上体を起こした。
その瞬間、もう一度あの機械音が鳴る。
―ピーンポーン…
「……あっ!」
私は慌てて立ち上がるとドタドタと短い廊下を駆けて行って、いつもなら確認するはずの覗き穴を確認しないままドアを開けた。
「はいっ、」
パジャマのまま飛び出して返事をすると、目の前には真っ黒のマントにスラックス、えんじのリボンタイのついたワイシャツに先の尖った革靴といった出で立ちの長身の男が立っている。
逆光で顔こそはよく見えないが、男の髪は藍色の空を背景に月の光を反射してキラキラと金色に輝いていた。
「えっと……、え?」
現実離れしたその光景に、だんだんと血の気が引いていく。
何やってんの、私。
空がこんなに暗いってことは、まだ夜中…?
こんな時間にこんな格好の人、絶対普通じゃない。
何でちゃんと出る前に確認しなかったんだろう。
ていうか何で出ちゃったんだろう…。
これってもしかして、不審者?泥棒?
考えれば考える程物騒なことがぐるぐると頭を駆け巡って、私はごくりと生唾を飲んだ。
しかし男は予想とは反して、そこにただ立っているだけで何もしてこない。
それがますます怖くもあるけど、私は今がチャンスとばかりに一度開けたドアを勢いよく閉めようとした。