桜琳学園(仮)
私はいつもこうしている。お留守番してもらう時とか、何かを伝えたいときには。
犬にそんなこと言ったって分かるわけないって言う人は多いかもしれない。まぁ、その考え方が間違っているとは言わないけど、私は伝わっているって感じてるんだ。
私みたいな考え方している人の方が少ないんだろうけどね…
かく言う目の前にいる人も目を見開いてるぐらいだし。
「愛染さん?いつもそうしているの?」
本当に不思議そうに聞いてくる。
「はい。この子たちはちゃんと言葉が分かっているので。というより、人間に伝えるのよりずっと伝えやすいですよ。動物は素直なんで」
そう。人間なんかよりずっと素直。その証拠がこんなに近くにいるんだから。笑顔を張りつけてるこの人が。
「確かに、動物は純粋で穢れを知らない」
どこか遠くを見ているような目をしながらボソッとつぶやく先輩に少し驚いた。
隙を見せたらダメでしょう
誰でも人生何かしらはあるよね…
なぁんて、考えていると“行こうか”と声がかかり
進みだした先輩の後ろを私も黙って付いて行った。
なんだか気まずい雰囲気に暫く言葉を発することができずにいたが、それも校舎に入るまでの短い間だけだった。
一歩足を踏み入れた瞬間「何これ…」無意識に感嘆の声を漏らしていた。
開けた空間に大きな柱を囲むように高級そうなソファーが置かれており、天井からは大きなシャンデリアが存在感を表していた。
「ここは正面玄関だから…。人が来たときに恥ずかしくないようにしているだけ。ほかのところはここまでじゃないよ」
またあの笑顔で説明してくる。
「…気持ち悪い」
「え?」
“あっ”と口に手を当てるが正直もう我慢も限界ではあった。
「いい加減その顔やめてくれませんか?そろそろ我慢の限界なんですよね」
そこまで言って先輩の顔を見上げると、少し驚いた顔をしていた。
「笑いたくなきゃ笑わなければいいじゃないですか。先輩が笑わなくてもフォローしてくれる人はいるでしょう?無理に笑っていると本当に笑いたいときに笑えなくなりますよ」
最後の方はにこっと笑って言ってみた。
「はは…。君で3人目だよ。誰も気づかないのにね」
まいったな…と困ったような、でも少し嬉しそうな顔をして呟いた。
「ありがとね。でも、思ったことを口に出すのはちゃんと見極めた方がいいよ。敵は少ないにこしたことはないからね」