桜琳学園(仮)
近江の言葉に頷きそうになる。
“言葉は凶器”
まさしくそうだ。
「私は言葉という凶器で桜を、桜と勇也君、そして麗羅を傷つけた。でもね、そんな小者な私を救ったのも言葉だった。桜から、駆け落ちした後のことは聞いているかい?」
近江が尋ね、私は肯定した。
「勇也君はね、毎日、本当に毎日私にコンタクトを取り続けた。もちろん彼にも生活が、仕事があるからね。私のもとに毎日足を運ぶことはしなかったが、それでも週に1回は会いに来ていた。
彼は言っていたよ。私から桜を奪いたいわけではないと。好きで好きで仕方ないから、別れるなんてことは絶対にできないし離れるつもりは毛頭ないが、桜の大事にしている家族がこのままバラバラになるのは絶対ダメだと。それは自分の本意ではないと。
馬鹿正直に桜への愛を言葉にしてくるんだ、彼は。聞いているこっちが赤面状態だよ。
私はそんな彼に惹かれていってた。こんな言い方上から目線ではあるが、認めていたんだ。勇也君が義息子であることを。現に彼とは週1回食事をしていてね、近況を聞いていたんだよ。しかし私は桜に会うことが出来なかった。ちっぽけなプライドが邪魔してな」
確か、お母さんが言ってた。毎週金曜日の夜はお父さんどこかで食事をしているって。
でもお母さんは浮気を一度たりとも疑っていなかったな。
「彼は、言ったんだ。桜は器の小さな女じゃないと。あんたの娘だろ、と。あんたが信じてやらなくてどうするんだ、と。
その頃私は海外で大きなプロジェクトを立ち上げようとしていた。彼と約束したんだ。このプロジェクトが成功したら桜に、麗羅に、会いに行くと。土下座でもなんでもする覚悟だと。桜が許してくれたら、正式に義息子になってくれと」
そこまで言って、近江はお茶を一口飲み、次の一言を紡いだ。
「帰国した時、彼はこの世にいなかった」