記憶の向こう側





食べ終わった後…




勇樹はお手拭きで自分の口元を拭きながら、神妙な表情でポツリと言った。




「…叶恵って、自分のこと話さないよな。」



「…え?」




私、そんな風に見られてた?




驚いた私に、お手拭きをテーブルの上に置いた勇樹は思い出し笑いをこらえながら言った。




「…っつーか、最初、会話すら成り立ってなかったし。『あっ』とか『えっ』とかばかりで。」



「…そ、そうだっけ?」



「うん。女って自分のことばっかり喋る生き物かと思ってたけど、お前は違った。こんなやつ、いるんだなーって思って。」





喋れないのは、自分のことが分からないからなんだけど…。





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