記憶の向こう側
「あっ!シロー!見つけた!」
いきなり公園の入口の方から、女性の大きな声が聞こえた。
そのまま声の主の女性は、こっちに駆け寄ってきた。
「こら、シロー!勝手に走ったらダメじゃない。もう、手間かけさせるんだから…。」
…と、女性は子犬を抱き上げた。
「どうもすみません。うちの犬が…」
犬を軽くあやした後、女性は私に向き直り、頭を下げた。
「いえ…。かわいらしい犬ですね。」
私はとりあえず当たり障りのない言葉を女性に言った。
女性はにっこり笑って答えてくれた。
「ええ。近くで拾ったんですよ。かわいくて、放っておけなかったんです。」
「そうですか…。」
「それでは…。本当に、ご迷惑かけました。」
そう言って女性は、白い子犬を抱えたまま、足早に去っていった。