記憶の向こう側
不意に勇樹は、部屋にあった掛け時計を見上げた。
「あ…。もうこんな時間か。」
時計は夜8時を回ったところ。
「何か用事があるの?」
「いや…、仕出屋は朝が早いんだ。いつも4時に仕事を始めるからな。」
「そっかぁ…。」
うちの旅館だけじゃない。
たくさんの人達が勇樹の家のお弁当を食べている。
だから、朝が早い仕事だってこと、妙に納得した。
「ごめんな。ちゃんと送ってやるから。」
勇樹は申し訳なさそうに私に言った。
「ありがとう。」
「これは男の義務だからな。」
片付けも早々に、私達は勇樹の家へと来た道を歩き出した。