記憶の向こう側
「大変だったろ?独りで…」
全てを話し終えて…
勇樹の第一声が、それだった。
とりあえず勇樹の家に二人で帰ってから話してみた。
私が記憶をなくしたこと
一人で職を探してようやく辿り着いたのが今の旅館だったこと
とある街の飼い犬を見て、昔の記憶が少し蘇りそうになってること…。
「叶恵、すごい頑張ってたんだな。何も分かってやれなくて、ごめんな。」
勇樹の反応は、驚くでも怪しむでも引くでもなく…
とても心配そうに、優しい瞳で私のことを見てくれた。
「ううん。言ってなかったんだし、当然だよ。でも言って、心が軽くなったよ。ありがとう。」
「困ったら、何でも言えよ。すぐに飛んできてやるからな!」
「うん!」
私は満面の笑みでうなずいた。