記憶の向こう側
「二人です。」
「はい、どうぞ乗ってください。」
係員さんに誘導されて、私達は観覧車に乗り込んだ。
「やっと落ち着けるな。」
「うん。」
二人きりの空間に、観覧車の動く音だけが響く。
「あ!」
すると、いきなり勇樹の驚いた声が聞こえた。
「…?どうしたの?」
「携帯、充電切れてる…。」
「…えっ!?」
そうか、どうりでさっき携帯がつながらなかったわけだ。
「ああ、帰ったら充電しなきゃな。」
と、勇樹は少し悔しそうに窓の外を見やった。
さっきまでの雨は何だったのか、すっかり黒い雲は遠退き晴れている。
「叶恵…。さっき、不安にさせてごめんな。怖かったろ?」
「ううん。勇樹が来てくれたから、平気。」
「でももう叶恵には怖い思いさせたくなかったからな。」
「勇樹…。」
向かい合って座ってた私達だったけど、私は勇樹の隣に席を移した。