記憶の向こう側
「優しくするから、嫌だったり痛かったら言えよ。」
「うん。」
勇樹の顔が、ゆっくりと近くなる。
「叶恵…。」
吐息混じりの勇樹の声を聞いて、ゾクッとした。
まだ覚えてる…。
旅館で仕事中に襲われそうになった時のこと…
私は思い出して、怖くなって目をつぶった。
「叶恵…?怖いか?」
「……」
勇樹の問いにも答えられないくらい、怖くて何もできない。
すると、勇樹の心からの叫びが聞こえた。
「叶恵!目を開けろ。あのオヤジじゃない。俺だよ。」
「勇樹…?」
私はゆっくり目を開けた。
私の視界には、勇樹しかいなかった。
「うん。俺だから。絶対怖くない。分かるか?」
「分かる…勇樹…。」
私は勇樹をぎゅっと抱き締めた。