記憶の向こう側




「確かに、今の『田島叶恵』としての生活は、かなり楽しくなりました。…けど、やっぱり不安になることも確かで…。」




私は下を向いて白い床を見つめた。




そして、そっと顔を上げて島川先生の目を見た。




「自分は一体何者なのか、もしかしたら誰かが私を待ってるかもしれない。…そう考えるだけでも、苦しいです。」




ずっと考え続けていること…




私は過去を捨てたけど、もしその過去を私以上に大事にしている人がいたら…




その人の想いを考えただけで、胸が苦しくなる。




だから私は普段、そんなことを考えないようにするために、旅館の仕事や勇樹のことばかり考えるようにしていた。




私の話を聞いて、島川先生はフゥーッと息を吐いた。




「そうか…。じゃあまた検診においで。もう、週に一回じゃなくてもいい。気が向いた時とか、記憶の断片を見つけたとか…。まあ話したくなったらいつでも相手するから。気楽に考えてな。」



「はい…。」





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