記憶の向こう側
それから一週間。
相変わらず記憶は戻らないものの、ケガの方がかなり良くなったので、私は退院することとなった。
「梓さん、最後までお世話になりっぱなしで、本当にすみません。」
病院の正門前。
私は、看護師さんを『梓さん』と呼ぶほどまでに、すっかり仲良くなっていた。
しかも…
「いいのよ。忙しいからお金なんて使ってないし、叶恵ちゃんの役に立てるなら…。」
「立て替えて頂いた入院費は、必ずお返しします。」
そう
身寄りすら分からず、当然お金もない私の入院費を、梓さんに立て替えてもらっていた。
「本当に構わないのよ。…これからが大変だと思うけど…、本当に一人でやっていけるの?」
ずっとペコペコ頭を下げっぱなしの私だったけど、その梓さんの問いには自信を持って答えた。
「はい。一人で頑張ってみるって決めましたから。」
けれど、不安そうな島川先生と梓さん。