記憶の向こう側
すると、窓の外の敬太が言った。
「ごめん、杏子。杏子の気持ちも考えないで。死産したのは聞いてる。つらいのに、俺、杏子を無理に連れ出そうとして…」
敬太…
私だって、きっと敬太の気持ちを踏みにじったよね。
「ううん。敬太…、私、敬太が一番大切だから。」
泣きそうだよ。
敬太…
本当は敬太の隣にいたいのに。
「杏子、また今度はちゃんと玄関から迎えに行くから。絶対待ってて。」
それだけ言うと、敬太は周りの様子を確認しながら足早に去って行った。
これが敬太の最後の姿だと…、思うこともなく…。