記憶の向こう側
「分からないんです…」
やっと出てきた、小さく消えそうな声。
そんな声でも、看護師さんの耳にはちゃんと届いていたようだった。
でも、私の言葉の意味を認識した途端、その穏やかな顔が凍りついた。
「え…、分からないって、検査では脳に異常は見られなかったはず。…先生呼んでこなきゃ!」
看護師さんがただならぬ顔つきになって、急に焦りだした。
そして…
そのままバタバタと走って、部屋を出て行った。