squall
「あっ、ごめ……!」


私は佐野に気を遣わせないよう。
慌ててその涙をぬぐう。


「廣橋…」
「違っ。違うの。佐野のせいじゃ、ないから」


最近。
惣一のことで、緩みっぱなしだった涙腺。


「けど…」
「違う。ほんっと違うから」


ここで泣くのはずるいし。
こんなふうに、涙で釣るような女には見られたくなかった。

ただ。
涙が出るくらい嬉しかったのは、ほんとだけど…。


「…場所。変えようか…」
「…えっ?」


私をちゃんと、知っててくれた。


「ちゃんと、話したいから」
「佐野……」


それはあの頃の。
私の望み、だったから…。
< 221 / 309 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop