squall
そう言いながらも。
佐野の腕は緩むことはなかったし。
私も。
その腕を、振りほどこうとはしなかった。

ただふたり、月明かりの下。


「………………」
「………………」


しばらく、そうしていた。
聴こえるのは。

波の音と。
ゆっくり刻む、佐野の鼓動…。

その音を聴きながら。
私はあの頃のことを思い出していた。

…と言うより。
今がそうなんだと。
錯覚していたのかもしれない。


「…佐野…?」
「…ん?」
「佐野……」
「…ん…」


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