甘い罠
大体今日の碧は、一体何だったのだろう
何が目的で、あんなに私と木村さんの仲を取り持とうとしたのだろう?

いくら木村さんに頼まれたとはいえ…

それとも、私と木村さんが付き合うことで、碧に何かメリットになるようなことでもあるのだろうか?

瑠璃はまた、腑に落ちないものを感じていた


具合が悪いの?と心配する木村に、「ちょっと碧が心配で…」と、嘘をついた


カーブになり、車が急に傾いた

「いてててて…っつ」

木村はこめかみを押さえ、顔を歪めた

「大丈夫ですか?

木村さん?」

瑠璃はびっくりして木村の顔を覗き込んだ

木村は平気、平気という風に、何度も頷いた


瑠璃はハッとした
そういえば、木村は非常階段から落ちて、頭に6針も縫う怪我をしたのを思い出したのだ

「切ったとこが痛むんですか?

そういえばお酒…

飲んで大丈夫だったんですか?」

木村は顔を上げたが、首を傾げるように傾け、まだこめかみを押さえている

「あぁそっか
碧ちゃんに聞いたんだ…

いや、実は店にいる時からちょっとズキズキはしてたんだ(笑)

しまったな…
やっぱりアルコールはきくわ」

木村は苦笑した

「そうだったんですか?

もう、駄目ですよ無茶しちゃ…」

瑠璃は、木村の背中でもさすってあげたい衝動に駆られたが、躊躇した

こんな時に不謹慎だが、痛みに歪む木村の顔は、とても色っぽく映り、瑠璃はドキドキしていた

「もう平気だから

ごめんね」

木村はそう言って、無理に笑ってみせた

事故の話しを、詳しく聞いてみたいとも思ったが、やめておいた


タクシーは見慣れた街に入っていた











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