甘い罠
「碧の家、この辺なんですよ



しばらく2人は黙っていたが、その沈黙を瑠璃が破った


「へぇ、そうなんだ」

2人は、左右対象の車窓に流れる景色を見ていた

「瑠璃ちゃんとはずっと親友なの?」

木村の目にはそう映っていた

親友と呼び合うには程遠い2人なのに

「まぁ…そんなとこですね」

瑠璃は返事に困ったが、違います。と言うわけにもいかない

「でも、今日碧に会ったの随分久しぶりだったんですよ
3ヶ月ぶり位かな?

碧ガラッとイメチェンしてて、最初誰だか分かんなかったですよ~(笑)

前と全然イメージ変わりましたよね?」

瑠璃の問い掛けに、木村は不思議そうな顔をした

「イメチェン?

したっけ?
碧ちゃん…」

「え?(笑)
だってあんなにバッサリ髪切ったし…」

男の人は、女性の髪型の変化などには疎いものだが、碧の変貌ぶりは大胆なものだったので、どんなに鈍感な人でも気付かないことはないだろうと瑠璃は思った


「髪、切ったんだ?

え?碧ちゃんが?」

木村はまだピンときていないような顔をしている

「あれ?
だって碧が髪切ったの2、3ヶ月位前って言ってたから…その頃もう親しくしてたんですよ…ね?」

瑠璃が問い掛けると、木村は車窓の外に目をやり、黙ってしまった

世間話程度の話のつもりで言った瑠璃だったが、木村の反応に、何かまずいことでも言ってしまっただろうか、と自分の言葉を頭の中で反復した


木村はしばらく黙っていたが、「や、そうだったのかも…な」と、独り言のように呟いた

その声は、瑠璃には届かなかった



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