甘い罠
瑠璃の会社は、総勢20人ほどの小さな会社だ

9時に出社すると、瑠璃より2つ年下の菜々子と一緒に簡単に清掃する

9時半になると、営業の男性社員がミーティングを始めるので、お茶の準備をするのも2人の仕事だった

給湯室の換気扇の下、菜々子がセブンスターにカチッと火を点ける

「で、どうだったんですか?」

菜々子は表情も変えず聞いた

菜々子は顔も性格もクールで、入社してきた頃瑠璃は苦手だった

媚びることがないので、生意気な印象を受けたのだ

しかしそれは、男性社員にも上司に対しても同じで、元々そういう性分なんだということが後に分かった

日ごと、その裏表のないサバサバした性格に、瑠璃はだんだん好感を持つようになった

菜々子は、頭が良くて仕事も瑠璃より全然出来た
しかし、その辺はわきまえていて、瑠璃を見下すような態度をとることはなく、うまく立てながらフォロー出来る賢い子だった

人の後を付いていくのが楽という、根っから末っ子気質の瑠璃は、色んな面で菜々子を頼りにしていた
仕事や恋愛の相談をしても、菜々子は冷静かつ的確なアドバイスをしてくれる

もちろんそれも、年上の瑠璃をうまく立てながらしていることだ

一緒に仕事をするようになって5年経った今、
瑠璃にとって菜々子は、誰よりも信頼出来る存在になっていた 



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