甘い罠
瑠璃と菜々子は、会社の裏通りにあるカフェで昼食をとることが多かった

瑠璃はワンプレートのロコモコ風のメニューをがっつりと食べ、菜々子はクロワッサンサンドとカフェオレで軽く済ませている


「私、その転落事故新聞で見ましたよ」

食事を済ませた菜々子が、またセブンスターに火を点ける

「えっ、新聞に載ってたの?」

普段新聞を読まない瑠璃は驚いた

「小さい記事だったけど…

近場だし、気になって読んだんです

杉山さんて人、高校生と大学生の息子がいたみたいですね」

妻子持ちということは碧から聞いていたが、そんなに大きな息子がいたとは瑠璃は知らなかった


「でも…木村さんて人の事故とは関係なさそうだし、それとこれとは別で頑張ったらいいんじゃないです?

まぁ確かに碧さんの性格を考えると気味悪いですけどねぇ」

ちょっとつり目気味の菜々子の目は、空へ舞い上がるタバコの煙を追っている


「そうなのよ!

私もそれだけが引っ掛かってるのよね

あの碧がただの友達心でお膳立てしてくれてるとはどうしても思えないのよ

なんか裏がありそうで…」

瑠璃の怪訝そうな表情に、咽せるように菜々子は吹き出した

「瑠璃さんちょっと警戒し過ぎですよ(笑)

何はともあれ、まず木村さんをモノにすることが先決だと私は思いますよ?

どうせ碧さんみたいなタイプは本音なんて言わないんですから


だったらまずは木村さんと付き合って、どうして碧さんがあんなに私達を引き合わせようとしたか、木村さんに聞いた方が早いんじゃないですかねぇ」

菜々子は冷静な顔で諭すように話した


なるほど、と瑠璃は思う

「でも、あれ以来木村さんから音沙汰なしなのよねぇ

碧から聞いて連絡先は知ってると思うんだけど」

「営業してるなら平日は難しいんじゃないです?
接待とかあるだろうし…

週末まで様子みて
あんまりガツガツいくより、向こうからの連絡を待った方がいいと思いますよ?」


碧は積極的にいくよう薦めたが、ここは菜々子のアドバイスの方が的を得ているような気が瑠璃はしていた

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