甘い罠
菜々子の予感は的中した

木村から連絡がきたのは、その週の土曜の夜だった

土曜の夜なのに何の予定もない瑠璃は、自分で作ったドリアをつまみに、赤ワインを飲んでいた

22時を過ぎたころ、瑠璃の携帯が鳴った

瑠璃は連続ドラマに夢中になっていて、テレビに目を向けたまま、バッグに入れっぱなしだった携帯を掴んだ


木村から連絡がくることを予想していなかった瑠璃は、着信画面を見て心臓が跳ね上がった

すぐさまテレビを消し、何故か立ち上がった

一呼吸おき、通話ボタンを押す
意味もなく、ちょっと慌てた様子で「はいはい、内藤です」と大きめの声で電話に出た

何かしていた雰囲気を演出したかったのだ


「あ、木村です

こないだ碧ちゃんと一緒に飲んだ…

覚えてるかな?」

遠慮がちに木村は聞いた


忘れるわけがない、と思った瑠璃だったが、「あ…あ~あ!木村さん」と、たった今思い出したような口ぶりで話す

「良かった覚えてくれてて(笑)

こないだのお礼を言いたかったんだけど、毎日帰りが遅くて…

週末の方が瑠璃ちゃんもゆっくりしてるかなと思ったんだ

あ、でも今…大丈夫かな?」

「はい、私もちょうど今帰ってきたところで…」

瑠璃は嘘をついた

週末の夜に家で一人飲んでるなんて、なかなか恥ずかしくて言えなかった


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