甘い罠
木村はまた黙ってしまった

考えるような顔をしながら、片手で首を揉む


やっぱり聞かなきゃよかった、と瑠璃は思った

前にタクシーで送ってもらった時と、同じ空気が2人の間に流れていた



「お待たせしました」

ウェイトレスが料理を並べる

木村は押し黙ったまま、箸をのばした

「わぁ、美味しそうですね」と、瑠璃は明るく言ってみた

「うまいんだよ、ココ」

木村は軽く頷きながら言った


しばらく黙って黙々と食べていた

「あ、よそいましょうか」
小皿を取り、大皿に盛られた八宝菜を瑠璃はよそった


「ありがと」と木村は短く言い、おしぼりで口を拭った

木村はしばらく瑠璃がよそう姿を眺めていたが、「あのさ…」と、少し身を乗り出すようにして口を開いた


「うーん…

いや、なんか変なこと言うようだけど…

俺、あの時確か…
誰かに突き飛ばされてると思うんだ…」


瑠璃は手を止め、木村の顔を見た








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