二秒で恋して
「ミズキさん、まだ寝ないの~?」

 いきなり扉を開けられて、私は思わず手にしてた美容クリームを落としそうになった。

 あわてて隠そうとした手を、素早い動きで掴まれる。にやり、と笑った一真に、思わず口を開く。

「こっ、これは別に、気にしてるとかじゃないからね! ただちょっとお手入れというか、だからそのっ、恵利にもらったから使ってみようと思って……」

 赤地に金のロゴが入ったそれが、皺予防の高級美容クリームだなんて、まさか一真が知ってるはずはない。

 きっと知らないはず、そう思いながらもあわてる私に、一真は眼鏡を軽く押し上げて笑った。

「ふ~ん……三十路だと色々気を遣うんだね。まあ、頑張って」

 どうでもよさげな口調に、私は余計に真っ赤になった。

「ちょっと! まだ二十九だってば!」

 閉まったバスルームの扉の向こうで、一真の押し殺したような笑い声が聞こえた。

 ――ちょっと年下だと思って。それでも、私と五つしか違わないくせに!

 無意識に力が入って出てきていた乳白色のクリームを、念入りに眉間にすりこんでから、私は憤慨してリビングへ向かう。
 

 
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