二秒で恋して
 ブラインドの隙間から覗く月明かりに、時々照らされる彼の顔。

 いつものへらへらした笑顔が嘘みたいに真剣で、整った造作をしてる。

 眼鏡を外した途端、存在を主張する瞳。昼間は優しいその色が、なんだか綺麗過ぎて冷たくさえ見える。

 でも時折こうして熱を込めた目線が下りてきて、囁いてくれる。

「ミズキ……」

 吐息と、愛しげな口付けと共に、何度も何度も名前を呼ばれて、まるで頭の奥がしびれたように、何も考えられなくなっていく。

 細身なのにしっかりと筋肉がついたその肩に、思わず爪をたてる。

 それを合図のように、捕らえられたのは唇。

 こうして彼の深みにはまっていくんだ。年下だとか、後輩だとか、そんなことも全部忘れて、彼に恋するただのオンナになる。

 また名前を呼ばれながら、私は思い出していた。

 初めて呼び捨てにされた、あの夜のことを。
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