ヘタレな彼氏と強気な彼女
「ふわーよかったあ、千歳がいてくれて。僕一人だったらって思うと今でも震えが来るよ~」

 一息ついて、オレンジジュースを差し出しながら笑う一輝。茶色のふわふわしたくせ毛が、扇風機の風で揺れている。

 髪の毛まで本人の性格に似るんだ、と私は何度目かわからないため息をもらした。

「千歳がいてくれて……って当たり前でしょ? 私の部屋なんだから」

「だってえ、僕一人で千歳が帰るの待ってる時も多いからさ。そんな時に出なくて本当によかった」

「もう、ほんっとにヘタレなんだから! 男のくせに情けないなあ」

「ごめーん……千歳が強いから、僕いっつも助けられてるね」

 えへへ、と小首を傾げて笑われて、頭を抱えるしかなかった。

 助けられてるね、じゃないよもう。

 私だって多少……いや一輝に比べたらかなり強い、かもしれないけど、それでも女なんだから。

 本当は私が助けてほしいっての。

 そう思いつつ、オレンジジュースを飲み干す私の隣で、一輝は取り込んだ洗濯物を畳んでいる。

 ぴっちりと端と端を合わせて折りたたんでいくその手つきは、ズボラな私の母親よりも丁寧だったりして。

 私が家事全般不得意なのはきっと母親に似たんだ。そうだ、そうに違いない。

 だから仕方ないのよ、と自分の中に流れる血を恨むことにした。

 ふと見たら散らかっていた部屋の中は綺麗に整頓されていて、掃除機もかけられてさっぱりしている。

 昼ごろ起きてきた私がぼんやりしている間に、こうやって一輝が家事を済ませてくれて――こんな週末を過ごすのも、気づけばもう三年目。

 虫もおばけも人間ですら怖がってびくびくしているヘタレな男、それが相馬(そうま)一輝。

 男兄弟の中で育って、兄や弟より男らしいとかいう不本意な評判を持つ私、西村千歳の正真正銘の彼氏だ。

 女の子みたいな一輝と、男みたいな私。

 それはそれでお互い補い合っていて、うまくいっているのかもしれないけれど――なんだか最近無性にイライラする。

 そう、例えばこんな時。

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