この窓を飛び越えて…
授業終わりのチャイムが響いた。
それを聞いて我に返ったように窓から視線を移す。
「きりーつ、礼!」
号令に間に合うように慌てて席を立ち、ペコリと頭を下げた。
先生が教室を出ていくと、周りの空気は一変する。
「莉ー桜っ」
わたしの名前を呼びながら近づいたのは親友、
遠山 香葉 [とおやま かよ]。
消極的なわたしとは違って、何事にも迷わず突き進める憧れの人だ。
わたしもそんな行動力があったら苦労しないのに…
と思う。
「次教室移動だよ?」
「あっ、そっか」
そう言われて机の中から教科書類を引っ張り出した。
二人で並んで教室を出る。
「そーえばさ、また窓ばっか見てたね」
「えっ…あ、うん」
「何かいいものあるの?」
「別にないよ」
微笑んで答える。
『名前も知らない人に恋をした』なんて口が裂けても言えない。
香葉にこんなことが知られたら、きっと隣の高校に乗り込むだろう。
「ふーん。まぁそうだよね。窓の外って言っても、九雪校しかないし…」