この窓を飛び越えて…
香葉の優しさに包まれた質問タイムがまた始まる。
「その人、十雪の生徒なの?」
「……ううん。九雪の人…」
香葉は目を見開いて、瞬きを繰り返す。
やっぱり衝撃的なものなんですか…
わたしは思わず苦笑いをした。
分かりきってことだから。
「どこで知り合ったの?」
「知り合ってはないの…」
「え?」
この恋一番の障害物をわたしは告げる。
「相手はもちろんわたしを知らないし、わたしも……何も知らない…」
「そっか…」
香葉は残念そうな顔をしている。
それもそうだ。
考えてみれば、これがわたしの初恋…。
それなのに、叶わないような恋なんて…ずっと期待していてくれた香葉にとってはあまり喜べるものではない。
「莉桜はさ、どこで出会ったの?」
「えっ?……あ、出会ったというよりは、見つけたの」
「へぇー」
「今の席、窓側でしょ?席替えをしたあとから、窓を見つめてるんだけど…」
向こう側に居たのは、黒髪の彼。
柔らかい笑顔で誰かに笑いかけているその姿はいつまでも頭から離れなかった。
それから窓を見るときに彼を探すようになった。
見つける度にキュンと胸が躍る。
毎日顔が見られることが唯一の誇りで、嬉しくて…
気づいたら、今まで感じたことのない気持ちになっていた。
男の人でこんな感情が芽生えるなんて知らなくて…
これが香葉のいう“恋”なんだと思った。