この窓を飛び越えて…
「ふーん。まぁそうだよね。窓の外って言っても、九雪校しかないし…」
香葉の言う九雪[くゆき]校とは、隣に隣接するこの学校の姉妹校だ。
わたしたちが通うのは十雪[とゆき]高等学校。
隣は九雪高等学校。
間には細い道一つしかないくらい。
だから、手を伸ばせば届き“そうな”くらいの距離にある。
そのため窓に視線を送れば、向こうの教室風景とかも見えるのだ。
「莉桜はさ、もっと周りを見ればいいのに」
ふと、香葉がそんなことをぽつりと言った。
首を傾げたわたしに、ため息をつきながら言う。
「もう高校生だよ?恋くらいしなよ」
「…そうだね」
ぎこちない笑みを浮かべて、わたしたちは理科室に入る。
ここは窓を見ても何も見えない。
少しがっかりして、香葉の隣に腰掛けた。
斎藤 莉桜 [さいとう りお]
十雪高校一年生。
あまり目立つことは好きじゃない。
スポーツよりは勉強が得意。
と、いうのも…
この十雪高校はそこそこ偏差値が高い学校。
逆に隣の九雪高校は、スポーツ推薦を中心とした高校。
勉強派とスポーツ派に分かれている姉妹校として有名な学校だ。
「莉桜、今日は実験だって」
「あ、うん」
香葉は早くも席から立ち上がり、わたしの腕を引っ張っていた。
それに応じるように自分もすぐに席から離れ、授業の準備を始める。