この窓を飛び越えて…



わたしの首の動きが止まる。
頭の中は真っ白になった。

夢を見ていそうで…目を必死に開いた。

呼吸が、心臓が……一瞬静止する。
何もできない金縛りのような時間がわたしを流れた。


「斎藤?」


原田くんの声で、思い出したように息をする。
頭と心だけはまだ追いつけずにゆっくり可動し始める。

足が震えたのが分かったのに、それで自分が分からなくなった。


わたしの視線の先にある影にはまだ気づかれていない。
少しホッとした。

揺れる短髪の黒髪に連れて、わたしの気持ちも揺れる。



こんなとこで会えるなんて……。

どうすればいいんでしょうか?
今すぐ香葉に聞きたいです……っ



微笑むような優しい表情は、教室の中から見た窓の向こうとそんなに変わらない。


瞬きを繰り返すわたしを余所に、自己紹介が始まっていた。

九雪の生徒から、一人一人立ち上がる。

そしてついに、わたしが見つめていた黒髪の彼も立ち上がった。



見間違いなんかではない。

あの姿は正真正銘、―――“窓辺の人で……。”



口が開かれ、中から静かな声が飛び出す。






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