この窓を飛び越えて…
「……っぶねー」
ボソリと、耳元で低い声が聞こえる。
初めて聞く気もするけれど、違う。
わたしは……知っている。
でも、わたしが知ってるのはこれだけじゃない。
温もり。
感覚。
腕。
匂い。
知ってる、なんてものじゃない。
わたしはこれに慣れてる。
安心だってできる。
でもこれは、もう“存在”しないはずのもの。
もう一生感じられないと思っていたこと。
――“じゃあ、何で?一体、誰なの?”――
ゆっくり、顔をあげた。
わたしの額に触れたのは、見覚えのある短い黒髪で。
四回も見ることが、黒い瞳と目があう。
「……ぅそ…」
声が震えた。
「莉桜っ!大丈夫?!」
香葉が駆け寄り、わたしの手を握る。
それでも、わたしは彼から目を逸らせない。
それにこの状況も理解できていない。
わたし……何してる?
何で、彼に横抱きされてるの?
えっ……抱きしめ―――られてる?!
「おい…大丈夫か?」
どくんと、心臓が動いた。
―――“わたしは、この声も…”―――