この窓を飛び越えて…
無心で立ち上がる。
頭が、まだ働かない。
あの声と、温もりだけが、わたしを支配する。
「莉桜?」
香葉の声で、やっと現実に返った。
「…あ…れ?」
「良かったー!ごめんね!!あたし、莉桜が階段怖かったこと忘れてた」
香葉が抱き着く。
そうしてやっと、落ちかけたことを思い出した。
あっ、そうだっ…!!
慌てて下を見た。
黒髪が視界に入ったことに、ホッとする。
「…あ、…あの…ありがとうございました」
お礼を聞いてか、彼も顔を上げる。
“窓辺の人”……間違ってない。
――“じゃあ何で、あの感覚を思い出したんだろう…”――
記憶を探りながら、わたしは一礼した。
「け、怪我はないですか…?」
「……平気だ」
「えっと…」
「………」
「………」
話が終わってしまって、お互い顔を逸らす。
そのうち“窓辺の人”も立ち上がった。
「じゃあ俺…行くから…」
「あ、はい…」
「………またな」
「………えっ?!」
振り向いた時にはもう階段を駆け上がり終えていた。
さすが九雪だと思わせる。