秘書室の言えなかった言葉

 英治 side

佐伯さんが、去って行った後。

苛立ちを抑えられないまま、俺は秘書室に戻る。


「英治、園田さんとちゃんと話せよ。佐伯専務の事は、任せておけ。
それと、今日はもうこのまま帰っていいから。で、明日も仕事って言っていたけど、英治は休み。そのかわり、月曜日、園田さんと一緒に早めに出勤してくれ」


そして、真人はそう言って、秘書室を出て行く。


秘書室には知里と二人きり。

気まずい空気が流れる中

俺は少しずつ、知里に近付く。


この1週間、俺なりに考えた。

知里が佐伯さんの事を今もまだ想っているのなら、諦めようと。

俺が諦める事によって、知里が幸せになるのなら、それでいい。

そう思い始めていた。


だけど、さっき、嫌がる知里を見て、考えは変わる。

知里は俺が守る。

知里の事を、絶対に手放さない。

例え、知里が今も佐伯さんの事を想っていたとしても。

もし、そうだとしても、絶対にまた、俺の方に振り向かせる。

そう思ったんだ。


ただ、“守る”と思いながら、さっき俺が助けられなかった事は悔しい。


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