秘書室の言えなかった言葉
俺は知里の側まで行き


「知里……、ごめん」

「えっ?」


顔を背けていた知里は、俺の言葉にパッと顔を上げ、驚きの表情を見せる。


「さっき、助けられなくてごめん」


怒りに任せて殴り掛かりそうな俺を止めた真人。

そんな真人の判断は正しい。

わかっているのだけど、俺が助けたかった。

嫌がっている知里を目の前にして、何も出来ないでいる自分が嫌だった。

だけど、


「そんな表情しないで?私は大丈夫だから」


知里はそう言って、笑顔を見せる。


笑顔で“大丈夫”って……

俺には、嫌がっているように見えたけど、本当は嫌がっていなかったのか?

やっぱり、知里は今でも佐伯さんの事……


そりゃぁ、佐伯さんは、仕事は出来る。

それは認める。

だけど、あんなに女にだらしない人に、知里を渡したくない。

いや、例え、すごく真面目でいい人でも。

もう知里を手放す気なんてないんだ。


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