秘書室の言えなかった言葉
「大丈夫って……。やっぱり今でも佐伯さんの事が好きなのか?」


何で佐伯さんなんだよ。

知里の気持ちがわからない不安と苛立ちで、つい口調が冷たくなる。

この苛立ちは、佐伯さんに対してなのか、知里に対してなのか。

それとも自分自身に対してなのか……

俺にもわからない。


「えっ?」


知里は固まって俺を見る。


固まるって事は図星なのか?


固まる知里を見て、俺は気持ちを抑えられなくなる。


「なんで佐伯さんなんだよ。俺じゃ、だめなのかよ……」


そう言いながら、知里を力いっぱい抱きしめる。

俺の腕の中で、知里は黙ったまま、何も言わない。


「俺の側に居てくれよ……」


そんな知里に、そう呟いた。

すると、さっきまで黙っていた知里が、俺の背中に腕を回し


「私が好きなのは英治だよ」


俺の胸に顔を埋めたまま、小さな声が聞こえてくる。

知里のその一言で、俺の気分は良くなる。

だけど、俺の中で、引っ掛かっているものがある。

俺は知里の両肩を掴み、知里の身体を離す。

そして、


「佐伯さんの事、今でも好きなんじゃないのかよ」


知里をまっすぐ見つめ、聞く。


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