秘書室の言えなかった言葉
「専務の事は好きじゃないよ」


知里も俺をまっすぐ見つめ、はっきりと言うのだけど。


「でも、嫌いで別れたわけじゃないんだろ?」


佐伯さんから聞いた事、そして、知里の寝言。

知里が俺を好きだと言ってくれても

本当は佐伯さんの事?

そう思えて仕方がなかった。


「専務から聞いたんだね……」


知里はため息を吐きながら続ける。


「昔……、専務が営業課にいた頃、私、専務と付き合っていたの。でも、専務が大阪に転勤してから別れたし、もう昔の話。今は専務の事、なんとも思ってないよ」


知里は今まで話してくれなかった事を話してくれる。


「っていうか……、専務が“嫌いで別れたわけじゃない”って言ったの?」

「あぁ。自然消滅したって」


その瞬間、知里の顔が強張る。

知里のそんな表情を見た事がない俺は


「知里?」


どうしたのか、と思い知里の顔を覗き込む。


「あっ、ごめん。えっと……、嫌いで別れたわけじゃないのかもしれないけど、だからって、私の気持ちは専務に全くないから。……それと、自然消滅したわけでもないから」


知里は、はっきりそう言い切る。


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