秘書室の言えなかった言葉
知里は嘘を付かない。

信じたいのだけど。

だけど、やっぱり俺の中で、あの寝言が引っ掛かる。

寝言だから、知里には意識がない。

だから、俺がその事で不安になっている事は、知里は知らないのだけど……

俺は、知里に意識が無かったにせよ、その真意を聞こうと思っていると


「ねぇ、どうしたら信じてもらえるの?」

「えっ?」


俺を見つめる知里の目は、少し潤んでいた。


どうしたらって……


「だって、英治……、納得してなそうな表情しているから……」


知里を気持ちや言葉を疑いたくないのだが、この間の寝言は、俺の中ですごく引っ掛かっている。


「この間の歓送迎会の後、家に泊まっただろ?」


知里は頷く。


「知里、寝言で“せいじ”って言ったんだ。“せいじのバカ”って……」


この1週間、ずっと不安だった事を話し出す。

その内容に、知里は驚いている。

そりゃ、寝ていた間の出来事。

知里に、そんな事を言った記憶が無い事くらいわかっている。


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