秘書室の言えなかった言葉
「何でって……」


私はドンッと倉木の胸を押す。


「さっき、私の言葉、聞こえていたんでしょ?なら、何で優しくするのよ!何で……、彼女がいるのに、私を抱きしめるのよっ!!」


倉木の腕から離れた私は、絨毯の上にペタンと座り、泣きながらそう言った。


最悪だ……

こんな風に気持ちを伝えるのなら、勇気を出してちゃんと伝えればよかった。


取り乱し、涙の止まらない私に


「なぁ、園田……。“彼女”って?」


倉木は優しい口調で聞く。


「さっき、喫煙ルームで……」


あの子の告白に、倉木は「ありがとう」と答えていた。

だから、あの子が彼女なんでしょ?


「喫煙ルーム?……あぁ、あの子ね」


そう言うと、倉木は何かを思い出したのか、ふっ、と笑う。

そして、


「あの子には“好きでした”って、言われただけだよ」

「へっ?」


どういう事?


私は顔を上げ、倉木を見る。


「だから、俺、彼女なんていないよ?」

「そ……、そうなんだ……」


告白してきた相手に対して、倉木の態度がいつもと違って見えたのは、あの子が「好きでした」って言ったから?


倉木……

彼女、いないんだ。


私は少しホッとする。


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