秘書室の言えなかった言葉
「知里、仕事終わったか?」


途中だった仕事を終え、知里に声を掛ける。


「うん、終わったよ」

「なら、帰るか」


そんな会話をしながら、帰り支度をしている知里をふと見る。


……ん?


「なあ、知里……。そこ、どうした?」


知里の首元に、2つの赤い跡がある事に気付く。


「どうした、って?」


何の事かわかっていない知里。

俺は知里の首元の跡に触れながら


「ここと、ここ。赤くなっている……」


虫刺されかな?


なんて思いながら、知里に触れる。

その時、ふと思う。


もしかして……

知里の白い肌にくっきりと残っている、この赤い跡。

いや、もしかしなくても……

キスマーク?


そう頭に過ぎった瞬間、落ち着いていた怒りが、また、込み上げてくる。


「これ、どうした?」


俺は知里の腕を掴み、俺の方に向かせる。

知里もそれが何か気付いたらしく、パッと首元を手で隠す。


やっぱりキスマークなんだ。

っていう事は……


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