秘書室の言えなかった言葉
「あっ!」


私は、ハッとし、顔を上げる。


「何?」


そんな私を倉木は柔らかい表情で見ている。


「やっぱり社長にバレないようにしなきゃいけないよね?」


会社には仕事をしに来ている。

だけど、嬉しくて態度に出ちゃいそうだから気を付けなきゃな、と思っていると


「あぁ、大丈夫じゃない?社長、そういう事に口を出さない、っていうか出せない?」


倉木はにやっと笑って、そんな事を言う。

倉木の言っている意味もわからないけど、倉木のそんな表情を見たのは初めてで。


倉木でもそんな笑い方するんだ。


なんて思いながら倉木を見ていると


「何?」

「えっ?あっ、大丈夫ならいいの。私、態度に出そうだからどうしよう、って思っただけだし」

「まぁ、もし“ダメ”って言われたら、その時はその時だろ」


倉木は平然とした表情で、そんな事を言う。


えっ?

それって、別れるって事?


倉木の言葉に、今度は悲しくなって泣きそうになる。


やっと、気持ちが通じたのに……


そんな私に気付いたのか


「なんか勘違いしてない?」

「えっ?」

「もし、付き合う事に反対されたら、園田が会社を辞めればいい話だろ?」


なんて事を、倉木はさらっと言う。


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