秘書室の言えなかった言葉
「そ、そんな事、ないよ?」


そう思っても、やっぱり言えない私は誤魔化してしまう。


「そうか。わかった」


そう言って、英治はため息を吐く。

そして、


「俺、ちょっと出てくるわ。知里は頭が痛いのが治ったら、帰れ」


冷たくそう言って、部屋を出て行こうとする。


「えっ?どこ行くの?」


私は慌てて英治の後を追いながら声を掛けるが


バタンッ――


一度も振り返る事なく、英治は部屋を出て行った。


いつも優しい英治。

今までこんな風になる事はなかった。


私が誠司の事、黙っているのがバレた?

やっぱり誠司から、私と誠司が昔付き合っていた事を聞いたのかな?


もしそうだとしても、“何で言ったのよ!”と、誠司を責めるのは間違っていると思う。

まぁ、わざわざそん事を誠司が英治に話す必要もないと思うけど。

とにかく、誠司を責めるつもりなんてない。


英治は私が何か隠し事をしていると思っているから、怒っているんだよね?


本当は誠司との事は言いたくない。

余計な心配を掛けたくないから。

だけど、それを言わない事で、英治とこんな風に気まずくなる方が嫌だ。

英治が帰ってきたら、ちゃんと話そう。

そして、黙っていた事を謝ろう。


そう決意したのだけど。

夜になっても、英治は帰って来なかった――…


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