秘書室の言えなかった言葉
歓送迎会が行われている店を出て、俺はタクシーを捕まえる。

タクシーの中でも、俺は知里の手を握ったまま。

知里はわけがわからず、俺をチラチラ見ている。

だけど、そんな事は気にせず、俺はまっすぐ前を見たまま

“絶対に知里を手放さない”

知里の華奢な手をぎゅっと握りしめ、そう思っていた。


マンションに着き、酔って足元がフラフラの知里を支えながら、部屋に入る。

その瞬間、知里は俺に抱き着いてきた。


「知里?どうした?」


いつも甘えてこない、そして、自分からこんな風に抱き着いてくる事なんてしない知里の行動に俺は驚く。

知里は俺に抱き着いたまま顔を上げる。

そして、お酒を飲んでいる知里は、頬を赤くし、とろんとした目で俺を見つめ


「英治……、好き」


そう言って、ますます俺にぎゅっと抱き着いてくる。

さっきまで余裕を無くし、イライラしていた俺は、知里のこの一言で落ち着きを取り戻す。


俺って単純だな……


そう思いながら、知里の髪を撫で


「俺も好きだよ」


そして、撫でていた手を知里の顎に移し、クイッと顔を持ち上げ、そっとキスをする。


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