卵の白身と黄身を分ける器具が、私の脳みそを白身と黄身に分けた時に出来たモノ
 
今日だけは、降らないで欲しい。

十五夜の月を隠した厚い雲を、黒くて灰色な夜空を見上げて、溜め息ひとつ。



最初の一滴を背中に受けて、深い溜め息ひとつ。
思う事はただ、降らないで欲しかった、と。



次第に叩き付ける冷たい夜雨を全身に受けながら、深い深い深い、溜め息ひとつ。

ボクは、ボクの重い意志とは関係なく不安定な視界の中、軽々と走り出す。



……今、どうしているんだろう?

この霧雨の中をボクと同じく走り続けているのは知っているけれど。



……どういう思いで?

ボクにはまだ先の、遠い未来の話のような気がして分からない。



……もう二度と動けなくなると知りながら走る気持ちは……?

次の周で、もしかしたら擦れ違えるかも知れない。



伝えたい事がある。



ボクが生まれる前から走り続けている事への尊敬。

ボクが生まれたから走れなくなる事。

ボクのせいで終わってしまう、でも、どうしようも出来ない無力さ。



自己満足でも……ただ、ただ伝えたいんだ……──







「パパ、なんであの電車、ピーッて言ったの?」

「新しいE231系が、古い205系に挨拶したんじゃないかな」



「ふーん。ねえ、どっちに乗るの?」
「新しい方だよ」

「やったあ!」
「……タッ君は新しい山手線の方が好きかい?」

「うん!だってカッコいいもん!」



「どうしたの、パパ?」
「……パパも古い山手線に挨拶したんだよ」

「なんて?」
「晴れの日も雨の日もパパを会社に送ってくれて……うん、まあそんな感じだよ」







《勝手に終わり》

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