短編集
「なにが?」
まただ。
彼は何時もそう言ってしらばっくれるのだ。
「悠くん、またそんなこと…」
再び線香花火に火をつけた彼の頬には涙が伝っていた。
綺麗だ、と思った。
しばらく彼に見とれていると、突然にこりと私に笑いかける。
「俺の居場所って何処なのかな」
「………」
そんなの
「無くたっていいじゃない。悠くんに居場所があったって窮屈なだけだよ。けど…」
私の言葉の続きを聞いて、彼は涙のあとがついた顔で微笑んだ。
やっぱり、綺麗だ。
季節はずれの線香花火も悪くない、と私は白い雲が浮かぶ空を眺めた。
終わり。