臆病な初恋。
そんな事を考えていると、目的地の喫茶店〝アムール〟に着いた。
ここのマスターは〝誰に対しても愛を持って接したい〟という意味で、お店の名前をフランス語で〝愛〟という意味にしたそうだ。
〝ジュテーム〟と迷ったそうだが、それは奥さんに止められたらしい。
中に入るとカランカランと洒落た鐘が鳴る。
「いらっしゃい」とマスターが笑顔を向けた。
「最近、全然亜清君と来ないね」
「幼なじみで仲が良かったのは昔だけだよ。
成長するにつれて、全然会わなくなっちゃった」
「そっかぁ、寂しいね」
「それが普通なんだよ、きっと。
……会いたいとは思うけどね」
最後の方は小さな声で言った。
きっと聞こえなかったと思う。
「俺は元々、奥さんとは幼なじみだからなー」
「ああ、そっかぁ!
おばさんとは幼なじみだったんだもんね」
「そうだよ。
大変だったんだよ!あいつを口説くのは」
それから延々とマスター…おじさんの昔話が始まった。
おばさんとの昔話をしている時のおじさんは本当に楽しそうで、聞いている私まで楽しくて笑顔になる。
それに、少年みたいな顔をして話すから、情景が浮かぶんだ。
おじさんとおばさんにも、色々な事があったのだなと。