抹茶な風に誘われて。
2.抹茶な風に包まれて。(お付き合い編)
Ep.1 かをる―夏の終わり
庭の風鈴が、夏の終わりを惜しむように小さく鳴った。
振り返るとちょうど今の音を最後に外されたところで、巾で綺麗に拭かれて、箱の中におさめられていた。
丁寧にその作業をするのは、つい先ほどまで流れるような仕草でお茶を点てていた浅黒い手。
その細長くて綺麗な指を無意識に見つめる私に気づいたのか、グレーの瞳がこちらを向いた。
「こういう季節物の片付けや何かも、大八木の婆さんがうるさかったもんでね。つい今でも習慣になってる」
低い声で呟いて、私に微笑みかけるのは着物のよく似合う、彫りの深い顔立ち。
もう何度も目にしているはずなのに、涼しげな微笑に胸がとくんと音を立てた。
「そ、そうなんですか……」
自分でも頬が赤らんでいくのがわかるから、さりげなく目をそらして答える。
不自然な態度に彼が気づかないわけなんてなくて、あっさりと着物の腕の中に捕らえられてしまった。
「せ、静(せい)さん――?」
「静、でいいっていつも言ってるだろう」
耳元で囁かれた途端、私の頬は火を吹くほど熱くなる。
「で、でも……やっぱり無理ですっ」
目をそらし続けてるのに、意地悪なグレーの瞳は追ってきて、逃げられずにかち合った目線で、楽しそうな色を浮かべてることがわかった。
――またからかわれてるんだ。ここは、平然としてなきゃ。
思ったってもちろん心臓は正直で、今にも聞こえてしまいそうなほどに高鳴っている。
――だ、だって……顔がこんな近くにあるんだもの。ドキドキするなっていうほうが無理だよ。
お見通し、とばかりに唇の端をあげた静さんが、腕の中の私をまっすぐに見下ろした。
振り返るとちょうど今の音を最後に外されたところで、巾で綺麗に拭かれて、箱の中におさめられていた。
丁寧にその作業をするのは、つい先ほどまで流れるような仕草でお茶を点てていた浅黒い手。
その細長くて綺麗な指を無意識に見つめる私に気づいたのか、グレーの瞳がこちらを向いた。
「こういう季節物の片付けや何かも、大八木の婆さんがうるさかったもんでね。つい今でも習慣になってる」
低い声で呟いて、私に微笑みかけるのは着物のよく似合う、彫りの深い顔立ち。
もう何度も目にしているはずなのに、涼しげな微笑に胸がとくんと音を立てた。
「そ、そうなんですか……」
自分でも頬が赤らんでいくのがわかるから、さりげなく目をそらして答える。
不自然な態度に彼が気づかないわけなんてなくて、あっさりと着物の腕の中に捕らえられてしまった。
「せ、静(せい)さん――?」
「静、でいいっていつも言ってるだろう」
耳元で囁かれた途端、私の頬は火を吹くほど熱くなる。
「で、でも……やっぱり無理ですっ」
目をそらし続けてるのに、意地悪なグレーの瞳は追ってきて、逃げられずにかち合った目線で、楽しそうな色を浮かべてることがわかった。
――またからかわれてるんだ。ここは、平然としてなきゃ。
思ったってもちろん心臓は正直で、今にも聞こえてしまいそうなほどに高鳴っている。
――だ、だって……顔がこんな近くにあるんだもの。ドキドキするなっていうほうが無理だよ。
お見通し、とばかりに唇の端をあげた静さんが、腕の中の私をまっすぐに見下ろした。