抹茶な風に誘われて。

「じゃあ、敬語はいつやめてくれるんだ？　いつまでも他人行儀だと思わないか？」

　斜めに額を隠す前髪を鬱陶しそうにはらいのけて、更に顔を近づけてくる静さん。

　私はといえば、もう逃げることもできずに赤い顔で固まってしまっていて。　

「む、無理です……だ、だって静さん年上ですし、そ、それに――これはくせみたいなもので」

　なんとか搾り出した答えにため息をつかれる。

　本気で嫌がってるのだろうか、なんて不安が渦巻きだした私の目を覗き込んで、静さんが突然にやりと笑った。

「じゃあ仕方ない。今日もこれで我慢しておくか」

　顎をくいっと持ち上げられて、そのまま唇が近づいてきて、ドキドキが爆発しそうになった最後の一瞬。

　からりと障子が開く音がして、二人きりだった水屋に大きな声が響いた。

「邪魔しちゃうもんねーっ、と……うわっ、マジで邪魔だった？　いつまで茶碗洗ってんのかと思ったら、こんなとこでイチャついてんじゃねーよっ、静！」

「いやーん、あともう少し遅ければバッチリキスシーン目撃できたのにいっ！　ちょっと、あんたがいつまでもお菓子食べてるからよっ、香織！」

「なーに言ってんの、ハナコさんったら。こういうのは寸止めってのが逆にいいんじゃない。ほらほら、静のイラついた顔見てみてっ！」

　わいわいと口々に言い合う三人に、私は恥ずかしすぎて思わず静さんの背中に隠れて――。

　見えなかったからわからなかったんだけど、それぞれ好き放題話し始めるいつものお友達は、静さんが足袋をはいた足を一歩踏み出した瞬間、しいんと静まった。

「お前ら……いいかげんに」

　空気というものを読め、と叫んだ声に、床の間の掛け軸まで揺れた、ような気がした。