抹茶な風に誘われて。
 夏真っ盛りから通い始めて、今日でもうひと月半。

 今時珍しい古い平屋の、立派な茶室で行われる『茶道教室』には週に一度、土曜日に。

 それ以外でもバイトがない日に少しだけ遊びに来てお茶をご馳走になったり、勉強を見てもらったり――回数としては週にニ、三度は会っている、かもしれない。

 でもまだまだ二人きりでいることに慣れないのは、なんだかんだ言っていつもこうして賑やかに過ごすからだった。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 帰り道に訊ねたら、茶髪頭をまだ痛そうに撫でながら、亀元さんが笑う。

「大丈夫大丈夫。あーでも今日はいつにも増して思いっきり殴りやがって。タンコブでもできたら商売道具の美貌が台無しじゃんかー。ねえ? かをるちゃん」

「あらあら、万年最下位ホストがよく言うわ。あんたにはタンコブぐらいあったほうがいっそのこと笑いで勝負できていいかもよ? どっちも中途半端だもんねーヒ・カ・ル」

 目立つネイビーブルーのスーツを着た香織さんにタバコ片手にはき捨てられて、亀元さんは一気に唇をとがらせた。

「ひっでー! いいよな、一応女だってことでいつも手加減されてんだから、香織さんは」

「あら、あたしだって殴られてないわよ? うふふん、やっぱり心は女だからかしら」

「ハナコさんは年上だからだろー? っていうか、オカマは触りたくないのかもよ」

「んまっ、ひどいこと言うじゃない! そんなこと言ってたらお店の若い子紹介すんのやめるわよ!」

「わーっ、冗談冗談! ハナコさんは素敵な女性ですっ。ハナコさんの紹介客とかなくなったら、俺マジでヤバイんですよー。ねっ? ハナコさん」

 あわててハナコさんの肩に手を置いて、にこにこ笑う亀元さん。

 一歩後ろであきれたように紫煙を吐き出す香織さんが、ふと気づいたように私を見る。

「あれ? そういえばもう帰っちゃうの? 別にあたしらに気を遣わなくても、もうちょっといたら? 今からが恋人たちの時間でしょーが」

 背後の門扉を顎で指し示しながら言われて、また心臓がどくんと飛び跳ねた瞬間。

 普段着の着流し姿になった静さんが、じょうろを持って出てきたところと目が合った。
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