抹茶な風に誘われて。
「おいお前ら、人ん家の前でいつまでも騒いでないでさっさと帰った帰った。かをるはこれからバイトだろう? 時間、大丈夫なのか」

「あっ、はい! 四時からなので、今から帰れば十分――」

「そうか、じゃあ気をつけて。また来週」

 見送ってくれる静さんにぺこりとお辞儀をして、亀元さんたちに自転車で追いつく。立ち止まっていた香織さんが、吸殻を携帯用灰皿に入れながら笑った。

「なんだか、本当に教室の先生と生徒みたいねえ。付き合ってるっていうのに初々しいんだか、じれったいんだか」

「あーらそれがいいんじゃないのっ! 今時のお付き合いが進みすぎなのよ。手と手が触れ合うだけでどきっとしたり、そういうのが青春ってもんでしょう?」

「ハナコさん、それじゃあレトロ過ぎだって。やっぱ年寄りだなー感覚は。まあ、静の場合相手がかをるちゃんだから遠慮してるんだろうけどさ」

 亀元さんが頭をかきながら呟いたら、ハナコさんが「なーんですってえ! よくも年寄りだなんて言ったわねっ」とつかみかかるふりをしている。

 またそれぞれに話し始める三人の話題は次々と移り変わっていって、ついていけなくなった私は、遅刻してしまう前にと、お別れの挨拶をした。

 自転車でお店へ向かいながら、いつしか頭に回り始めるのはさっきの香織さんの言葉。

『本当に教室の先生と生徒みたいねえ』だって――。

 実は自分でも少し気にしていたことだったから、ちくりと胸に棘がささったような気がしていた。
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