抹茶な風に誘われて。
「そんなんじゃないって言ってるじゃん。かをるちゃんが嘘なんてつくわけないでしょ」

「だってえ、モデル並みにカッコよかったんだもん。遠目でしか見えなかったけど、浅黒い肌に、彫りの深い顔だち! 着物着てたとこがまたセクシーでさあ……どっかインドとかそっち系の血が入ってそうじゃなかった? あたしに声かけてくれたらソッコー付いて行ったのに~」

 冗談めかして両手を組み、うっとりした目つきをしてみせる優月ちゃんに、咲ちゃんが「コラコラ、彼氏が怒るよ」なんて突っ込んでいる。

「でも日本語話してたんだってね。ハーフなのかなあ? それとも日本に長く住んでる外人とか……なんか謎の美形って感じだよね」

 咲ちゃんがそう言うと、優月ちゃんも頷く。

「いいなあーあんな素敵な人と付き合ってみたーい!」

「確かに。今の彼には悪いけど、女の子ならついついあこがれちゃうよねー」

「あんな人――私は嫌だな」

 はしゃいでいる二人を見ながら、私は思わず呟いていた――あの時の悲しくて、悔しい気持ちが蘇ってきたから。

 それから、折られた夕顔のことも。

「か、かをるちゃん?」

 驚いたように問い返す咲ちゃんの隣で、優月ちゃんは聞こえなかったようで、まだあれこれ独り言を言っている。

「あっ、かをるちゃん、バイトの時間に遅れちゃうんじゃない? じゃ、じゃね、またメールするね~!」

 気を使ってくれたのか、咲ちゃんがそう言って、私を自然に解放してくれる。

 ついもれてしまった本音に一番驚いていたのは私だった。

 人のことを悪く言うなんて、自分が一番いやだって思ってることなのに。

 戸惑いながらも、私は笑顔を浮かべ、手を振り返した。

「部活頑張ってね、咲ちゃん! バイバイ、優月ちゃん!」

 二人に挨拶して、駐輪場へ向かう。
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