抹茶な風に誘われて。
「だ、だって……特に用事がなかったから、電話したらいけないかなって……思って」

 最後は声が小さくなってしまったのは、静さんが一瞬あっけに取られた顔をして、そのまま笑い出してしまったから。

 さもおかしそうにお腹まで抱えて笑われて、今度は別の意味で赤くなってしまう私。

「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですかっ! 静さんだってお仕事とかでお忙しいだろうから、邪魔しちゃいけないって思ったから私――」

 我慢していたんですから、という言葉は飲み込んだつもりだったんだけど、顔に出ていたらしい。

 笑いをようやくおさめた静さんが、大きく開いていた着物の前を合わせて、優しい顔で私を見下ろした。

「わかったわかった。お前が普通とはかなり違う女だってこと、忘れてた俺が悪かったよ。だからちゃんと教えといてやる」

「え……?」

 ぽん、と頭に手を置かれて、私が首を傾げたら、静さんが自分の携帯電話を取り出して微笑む。

「これは、本当に連絡をとりたい相手にしか教えてない。だからお前がかけたい時に、電話したらいいんだ」

「私が、かけたい時に――?」

「そう。仕事中の時はちゃんと留守電にしてあるから、メッセージを残してくれればあとでかけ直す。携帯電話ってのは、そういう風にいつでも便利に連絡を取るためにあるもんだろうが」

 わかったか、と私の頭をぐりぐりして、静さんが携帯電話を開いてみせる。
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