抹茶な風に誘われて。
　ひとしきり泣いた後、久々に抹茶をご馳走になって、私は静さんの家を出た。

　送ってくれるという申し出を断ろうとしたら、また怒られてしまったので、結局素直に甘えることにして。

　あんな風に泣いてしまってすごく恥ずかしかったけど、静さんとの距離が今までよりもっと縮まったように思えたから、幸せな気分で別れた。

　お店の前で立ってくれている静さんに二階の窓から手を振って、後ろ姿を見送る。

　その時になってやっと思い出したのだ――相談しようと思っていたことを、すっかり忘れてしまっていたと。

　呼び止めようとしてから、ためらう。

　静さんがこの後自宅で翻訳のお仕事だって話していたのを思い出したからだ。

　さっきはいつでも電話していいって言ってくれたけど、やっぱり電話で話すような内容じゃないし、ちゃんと会って話したかった。

　明日、咲ちゃんにでも先に話をしよう、そして優月ちゃんに打ち明けるタイミングをどうするか、相談してみたらいいかもしれない。

　思いついたら我ながら名案に思えて、私は携帯電話を机に置いた。

　――静さんには、明日学校が終わってからきちんと話そう。

　そう決めて、私はいつもの日課である一言日記帳を取り出した。

　しばらくペンを浮かせたまま考えてから、やっぱり思いついた言葉をそのまま書くことにする。

『いつでも電話していい』

　静さんが言ってくれた、と記して、私は一人微笑んでいた。

　付き合うってどんなことなのか、正直まだわからない。でも、会いたいと――声が聞きたいと思うことは当然なんだって静さんが教えてくれたから、嬉しかったのだ。

　静さんも私に会いたいって思ってくれた、って――そう思っていいのかな？

　とってもおこがましい気がしたけれど、想像してみたらすごく嬉しくて。

　優月ちゃんに悪いなって気持ちを吹き飛ばしてしまうくらい、あたたかい気持ちがあふれてくる。

　――明日こそ、ちゃんと話すからね。

　ごめんね、と頭の中に浮かんだ優月ちゃんの笑顔に謝った。

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